「ある時気付くと土手に佇んでいたという記憶がある。その時の気持ちをはっきりと思い出すことはできない。水の流れ、風に揺れる草木、人声の断片が耳をかすめる・・・影を背負って何処へ歩いていくのか。」 金沢から世界へ地域演劇を発信する「劇団アンゲルス」の演出家である本庄亮氏の言葉は、『土手と夫婦と幽霊』という映画を他人事とは思えぬように語ってくれていて、とても嬉しい。 私にとっても、土手とは本当に「不思議な場所」だ。私の生活圏の中にあって、その境界は曖昧だ。何事も遠くから聞こえてくるようで、私はまるで幽霊のように彷徨い歩いているような感覚になる。川の存在も貴重だ。絶え間なく流れている。始まりも終わりもない。私が毎日眺めているのは、ただその流れだ。いつしか隠された記憶が蘇り、いつの間にか日常に接続する。
コロナ禍に限らず、私はこれまで何度か「土手」に救われている。『土手と夫婦と幽霊』は、私にとって記憶と救済の物語でもある。 コメントの受け付けは終了しました。
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