土手と夫婦と幽霊 -The River bank,The Couple,The Ghosts-
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渡邉高章監督インタビュー
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聞き手・文:冨永昌敬(映画監督)
 日大芸術学部の同期である僕と渡邉高章は、ともに1995年から映画学科監督コースで学んだ。戦後50年、また阪神淡路大震災や一連のオウム事件によってこの国がかつて経験したことのない局面を迎えていたが、僕も渡邉も「これから映画監督になるんだ」というまるで根拠のない自信でもって世の中を傍観していたはず。
 卒業後はそれぞれ別の道を歩んだ。僕は仲間うちで自主制作の映画づくりを続け、 数年後にはインディーズのまま劇場公開の機会を得た。いっぽう渡邉は卒業後まもなく商業映画の現場に飛び込み、制作部や演出部のスタッフとして映画づくりの経験を積んでいった。やがて監督作品を自主制作するようになった渡邉と、商業映画の監督になっていた僕は思わぬ場で再会した。
 2013年の水戸短編映像祭で僕は審査員、渡邉は入選監督の一人だった。同級生の作品を審査する立場の僕は、当然困った。水戸芸術館で顔を合わせるなり気さくに「おう、久しぶり」と声をかけてくる彼に、「お、おう」と気のない返事をしたのが懐かしい。結果としては渡邉に賞は届かなかったが、以降も彼は短編作品を量産し、のきなみ各地のコンペで高い評価を得ていった。今年の春、渡邉から「初めて劇場公開することになったからコメントを書いてほしい」と連絡があった。コメントよりも、僕は彼がどんな映画づくりをしているのかを知りたかった。そうして実現したのが以下の短いインタビューである。
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ーーー『土手と夫婦と幽霊』は主人公の〈私〉が小説家だけど、それはなぜ?

渡邉 主人公を小説家にしたことで、この映画には三つの観方があると思っています。ひとつは、本線である『土手と夫婦と幽霊』を書く小説家〈私〉の物語。もう一つは、主人公が書いた小説『土手と夫婦と幽霊』の登場人物〈私〉の物語、つまり、小説の映画化。三つ目は、これらを内包した映画『土手と夫婦と幽霊』。これは脚本を改稿していく中で思いついたアイディアなんだけど、当時は、観る場所によって形が変わるトリックアートみたいなものをイメージしてました。

ーーー〈私〉が書いた小説の場面化によって〈私〉が経験する時間を相対化する、という複雑な構造を持たせたのは?

渡邉 今回の映画制作では、脚本の前に約四万字の原作小説を書きました。元々「夫婦」についての自分なりの考察から始まった映画なんだけど、原作を書いたのは、テーマを明確にしたかったのと物語の整理、そして、撮影現場における効率化です。

ーーー小説を俳優に読んでもらった上で撮影に入ったということですね?

渡邉 はい。製本屋で文庫化して。

ーーーえ、わざわざ製本したってこと?


渡邉 はい。劇中でも使用してます。

ーーーああ、〈女〉が「あなたの小説を読んだわ」ってときに持ってる本ね。原作=小道具でもある。

渡邉 実は、〈女〉が持ってる本は、小道具として制作した別タイトルの文庫本で、『土手と夫婦と幽霊』の文庫本は別シーンで登場します。小説は〈私〉の一人称で、ストーリー展開は変わらずとも、主に舞台となっている「この世界」の構造と彷徨う〈私〉の心理描写を描いたものでした。本来であれば、それをそのまま映画化すれば良かったんだけど、すでに私の中で達成感があって......映画として完成させるには別な姿にしなければ面白くないぞと思いました。
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ーーー屋内を基本的にクローズアップで撮ってるのも人物の心理に迫るため?

渡邉 それと、屋外に出たときのロングショットに開放感を持たせるためです。 毎回事前にカット割りを決めて、その通りに撮っていって、ともかく現場で考え直すということはしませんでした。『土手と夫婦と幽霊』の撮影現場は、監督のほか撮影録音制作を兼ねてました。応援は時々来てくれましたが、基本的にメインスタッフ一人で乗り切りました。

ーーーワンオペ現場になるから、なるべく撮影がスムーズになるように準備をしておいたと。で、その方策が作品のスタイルにもなってる。

渡邉 本当は、映画は各セクションに作品を良くしたいと常に思うプロフェショナルがいるべきだと思います。それでも、低予算映画になると、自分のことは自分でやる、という普段自分の子供たちに教えていることを地で行かねばならなくて。だから商業作品を撮る時は、周りに出来る人が多くて、いつもとても楽に感じてる。

ーーーいつも自宅や近所で撮ってると思うけど、川崎、多摩川、私鉄沿線というありふれた風景から別な表情を取り出すような狙いはあった?

渡邉 「ありふれた風景」にこそ物語が潜んでいる、と常日頃思っていて、『土手と夫婦と幽霊』の場合、普段目にしている私的な画を切り取ったとも言えるけど、どんな場面を撮っても一枚の大きな絵を描いているような感覚がありました。「別の表情を取り出す」という意識はなかったけど、映画が日常に近付いたという印象があります。

ーーー生活圏の川崎、多摩川で撮ることは前提だった?

渡邉 はい。日常がシナハンなので、効率的とも言えます。インディーズ映画としては、制作的に経費を抑えられる側面もあるので、この前提は重要でした。あとは、自分が本当にそこで映画を撮りたいか、かな。
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ーーー卒制(大学の卒業制作)も湘南の実家で撮ってたよね?

渡邉 茅ヶ崎の実家の近くで撮りました。あと当時住んでた所沢。

ーーー所沢と江古田は日芸ならではだよね。俺も江古田で撮ってたし。生活圏で映画を撮るための方法を突き詰めた結果、この作品のスタイルが出来てるのかな。主人公たちの過去や背景を語るのに回想形式ではなく、現在の「幽霊」を導入した理由は?

渡邉 回想シーンは説明的になるので、出来れば多く使いたくないと考えてました。そうでなくても、全編モノローグは説明的であると思われがちだから。よって、 回想は「記憶」という部分でフラッシュバック的な使い方をしてます。「幽霊」は、生と死の狭間にいる存在です。その「幽霊」が見える我々もまた曖昧な境界線の上に生きてる。実は私自身、「幽霊」の存在は全く信じてないけど、 映画においては、映画を「映画」にしてくれる存在でした。

ーーーつまり幽霊は語りの道具ってことですよね。監督がほぼ一人で現場を乗り切るために舞台は近所。特にフォトジェニックでもない多摩川の風景から自分のイメージを取り出すために、幽霊や小説家を導入したと。

渡邉 はい。「フォトジェニックでもない多摩川」、というのは異論があるけれど(笑)、多摩川を舞台にするための道具として「幽霊」や「小説家」を登場させたということになりますね。多摩川が生活圏にあって生まれた作品というのは間違いない。もし川向うの 世田谷側に住んでいたら、どんな映画になっていたかは自分としては興味があります。物語については、いかに自分の人生とリンクしているかは重要で、その時に描きたいものは常にあります。でも、いつもすぐに撮影に入れるわけではないし、時間が経つと描きたいものは変わってしまう。そういう意味で、『土手と夫婦と幽霊』は今までで一番長い間、自分の手元に置いていた作品になりました。
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ーーー川崎で起こった架空の事件が記事として出てくるけど、川崎という土地への監督の視点とは?

渡邉 川崎に住んで来年で10年になります。川崎は、臨海部は工場地帯で、海側へ向かう南武線は学生時分から暗いイメージを持っていました。これは現場時代に川崎や横浜一帯をよくロケハンした経験によるところが大きいんだけど、どことなくだらしない空気と忙しない時間軸の中にある独特な世界観がある場所というのが私の印象です。市民にとって、良い意味でも悪い意味でも多摩川を身近に感じている人は多いと思います。どちらかというと生活に近い場所。通勤道、子どもの遊び場、犬の散歩、ジョギング......一日の中で多摩川に触れる機会は多いので、生活の端っこに常にあるような感じ。だけど、人々の生活があれば、自然と日の当たらない部分も生まれる。多摩川で起こった陰惨な事件も記憶に新しい。多摩川に限らないと思うけど、川という場所には、死角が多くあると思います。自分の中で不思議と違和感なく多摩川で人が死ぬ記事を書けたのはそういう部分が大きいです。どれも実際のものとは違うけど、過去の事件を引っ張ってきたり、少し加工したりして、用意したものでした。

ーーー次の作品も川崎ですか?

渡邉 今書いているものは、いよいよ多摩川(生活圏)を離れて、こっちの世界のみで「死」を描く長編です。「死」を実行する「死神」が見える女の子のロードムービーで、『土手と夫婦と幽霊』で描いた「再生」というメッセージを引き継いで、もっと強烈で前向きなメッセージを与えられたらと思っています。言うなれば、「生きる」 がテーマです。書いていくうちに、どうしてもコロナ禍の影響が出てしまっていて、多摩川縛りはないものの、物語上、自分の生活というか、自分の人生とのリンクはどうしてもせざるをえないようです。
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